研究概要 |
平成10および11年度では,有機物熟成指標としてメチルフェナントレン(MP)・メチルベンゾチオフェン(MBT)およびH/C ratioを検討し,前者は温度で300℃程度まで,後者は300-700℃程度までの指標となることが示唆された.後者のカバーする温度帯はかなり高く,熟成指標というよりは変成指標としたほうが適当である.しかし,後者では,炭化木片を用いたもので,かつ最大古地温比熱時間が極めて短いものであったため,天然の堆積岩で検討する必要があった.従って,最終年度である平成12年度は,堆積岩におけるH/C ratioを熱分解発生炭化水素によって見積る検討を,黒色頁岩加熱実験と接触熱変成試料分析により行った. 加熱実験には,島根半島松江市西持田に分布する未熟成の中新統成相寺層黒色頁岩を用いた.宅地造成によって新鮮な岩石が露出する場所から均質な試料を多量に採取し,約100gずつ塊状に分取した.試料は,7重にアルミホイールに包んだ後,半密閉性の蓋付き缶にアルゴンガスをいれて封入して電気炉に入れた.加熱温度は,200,250,300,350,400,450,500,550,600℃で,各48時間加熱している.加熱後は,塊状試料の酸化した表面をのぞき内部のみを粉砕して分析した.その結果,TOCは,0.65%(未加熱),0.49%(200℃),0.47%(250℃),0.44%(300℃),0.39%(350℃),0.36%(400℃),0.35%(450℃),0.35%(500℃),0.32%(550℃),0.29A(600℃)と単調な減少を示した.また,800℃熱分解発生メタン量(mg/gC)も同様に単調に減少し,600℃ではほとんど検出されなかった. 一方,天然試料では,島根半島地域において成相寺層黒色頁岩に流紋岩〜安山岩の単調な貫入の認められる場所を3箇所選定した.それらは,平田市別所,大社町遥堪および美保関町万原で,それぞれ普通輝石安山岩,石英斑岩および流紋岩が,明瞭な接触面をつくっている.こららの露頭では接触面から約30mまでの範囲で順次試料を採取した.TOCは,いずれも0.6-0.7%から0.1%以下まで減少する.また,熱分解発生メタンも200mg/gC弱から10mg/gC以下まで減少する.TOCに関しては,初期濃度が正確でないと厳密な議論はできないが,熱分解発生メタンの場合には,300℃を超える高温下では「その発生絶対量(mg/gC)と最大古地温の関係に時間因子の影響が少ないこと」が推測され,そのまま熟成指標にできる可能性が高い.以上,本研究では,300℃以下と300℃程度以上(600℃程度まで)で異なる有機物指標を用いて,温度範囲の広域な指標を開発した.
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