研究概要 |
断層ガウジの電子スピン共鳴(ESR)信号を利用した断層最終活動年代測定法を確立するために,「断層ガウジ中のESR信号を消滅させるメカニズム」に関する問題と,「断層破砕帯における放射性元素の放射非平衡」に関する問題に取り込んだ.深部掘削コア試料中の断層ガウジ試料では,ESR信号が熱的に消滅されていることが確認され,できるだけ深部から測定試料を採取することにより,「ESR信号の完全リセット」の問題を解決する見通しを立てることができた.熱の発生原因を明らかにするため,野鳥断層500mコアを用いたコンピュータ解析を行った結果,断層ガウジ中のESR信号の消滅には,摩擦熱だけではなく,熱によるガウジ中の吸着水及び間隙水の気化(蒸発)あるいは対流も関与している可能性が示された.一方,放射非平衡の問題と関連して,500mコア試料の断層面近傍から検出されたPb異常について再度詳しい化学分析(ICP-MS)を試みた.ガウジのマトリックスを構成する8〜20μmの粒子を抽出して分析を行った結果,断層面近傍の0〜3mmの部分から^<208>Pb/^<232>Th比,^<208>Pb/^<238>U比共に極端な異常が検出された.断層ガウジの0〜3mm及び3〜6mmの部分と>6mmの部分では,^<208>Pb/^<232>Th比と^<208>Pb/^<238>U比の強度が逆転しており,0〜3mmの部分では^<208>Pb異常が特に著しいことが明らかとなり,鉛異常が鉛同位体全体の異常ではなく,鉛同位体の一部(^<208>Pbあるいは^<208>Pbが移動・濃集したことを示された.この結果は,鉛の親元素であるラドン(^<222>Rnあるいは^<220>Rn)ガスの異常発生を考えることにより説明できる。以上のような熱やPb異常は常に検出される訳ではなく,地質調査所(GSJ)の750mコア試料を用いて断層ガウジ帯の各種分析(ICP-AES,ICP-MS,XRD,ESR)を行った結果では,断層面周辺で熱やPb異常は検出されなかった.一方,高温熱水反応実験による断層ガウジの生成実験を行った結果,スメクタイトは天然条件下でも比較的容易に生成することが明らかとなった.またスメクタイト起源のESR信号を用いて年代測定を行えば,断層ガウジの生成年代値を断層活動性評価に十分利用できることが示された.さらに,高エネルギー粒子線(高速中性子線及びα線)照射により,年代測定に適用できる新しい石英中のESR信号を発見した.
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