研究概要 |
渦鞭毛藻シストの群集変化や種の出現状況から古環境変化ー特に水質変化に伴う富栄養化などーを推定する試みがなされてきた.これらの成果は渦鞭毛藻シストのみの群集変化に基づいて論じられている.しかし,基本的には水温・塩分・栄養塩等の水質環境はシスト群集よりも栄養細胞群集に反映されていると考えられるべきである.このような観点,すなわち堆積物中に保存されている渦鞭毛藻シスト群集は栄養細胞群集をどの程度まで反映しているのかを明らかにした研究は少ない. 本研究では渦鞭毛藻栄養細胞の過去30年以上にわたる出現記録が残されている三重県・的矢湾及び長崎県大村湾を試料採取地とした.表層堆積物は的矢湾で1998年に8地点で,大村湾では1998年と1999年に南部を中心に4地点で採取した.柱状試料は的矢湾で1998年に2地点,大村湾では1999年に1地点で採取した. 的矢湾での平均堆積速度は0.55cm/年(St.1)と0.41cm/年(St.2),大村湾では0.31cm/年(St.5)であり,それぞれ過去120年,125年,145年間の記録が保存されていることが判明した. 的矢湾St.1の渦鞭毛藻シスト群集では未決定種を含め少なくとも18属34種が確認された.優占種はgonyaulacoidグループでのLingulodinium polyedra Gonyaulax scrippsae,protoperidinioidグループの Protoperidinium spp.であった.プランクトン出現記録によると有殻類では32属134種が確認されている.そのうちシストの出現と共通する種は9属17種である.シストと栄養細胞との対応関係が不明である種も多いが,シスト群集は有殻類に限っても偏った保存のされ方であることが実証された.
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