研究概要 |
地球の下部マントルに多量に存在するペロフスカイトは,アルミナ成分A1203を一定量固溶していると考えられている.しかしながらこの物質は合成が容易でなく,物性データの蓄積は限られている.本研究では,ペロフスカイトにアルミナ成分が固溶した際の結晶の物性への影響を分子動力学(MD)計算によって調べた.アルミナ成分を含んだペロフスカイトのMD計算を行うためには,あらかじめ一定量のAl(3+)粒子を結晶内に分布させておく必要がある.本研究では,MgSi03結晶(Pbnm)を基準に,1)結晶中のMg(2+)粒子とSi(4+)粒子とを無作為に同数抽出し,それらを全てAl(3+)粒子に置換するという方法,および,2)局所的な電荷の中和を満たすように,隣接したMg(2+)粒子とSi(4+)粒子のペアを選び出しそれを2個のAl(3+)粒子に置換する方法,の2通りのやり方で固溶体を作成した.これら2つの固溶体モデルのうち後者の方がエネルギー的にごくわずかに安定化していたが,両方の計算結果に大きな違いはなく,以下の特徴的な性質が両者に共通して見られた. 1.常温常圧下では,結晶中のAl濃度が増すにつれて格子体積が増大する.これは常温常圧下における粉末X線回折実験の結果(e.g.,Irifune et al.,1996;Kubo,1999)と調和的である. 2.圧力か上がり40〜50GPa程度になると,体積のAl濃度依存(上記1)がほとんどみられなくなる. 3.Al濃度の高い結晶ほど圧縮されやすくなる(体積弾性率が小さくなる)傾向がある.この傾向は,高圧X線回折実験(15GPa以下で測定)の結果(久保たち,1999;Zhang and Weidner,1999)と定性的に調和的である.しかしながら,この傾向は圧力の上昇とともに小さくなっていく. 4.この系における混合の過剰エンタルピーは正である.
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