研究概要 |
有用な生理活性を有する光学活性化合物の合成には任意の立体化学を有する光学活性化合物の合成法の確立が必要である。本研究では、両鏡像体共に入手容易な酒石酸エステルより調製される二核キラル反応場を設計し、種々の反応に対応できる触媒的不斉合成反応系の確立を試みた。 γ位にエステル置換基を持つE体のアリルアルコールへのニトリルオキシド不斉1,3-双極付加環化反応を試みたところ、高い光学純度でtrans体の3,4,5-三置換-2-イソオキサゾリンを得ることができた。このtrans体の2-イソオキサゾリンは電子吸引性のエステル置換基の特徴を生かして、少量のDBUを作用させることによりcis体の2-イソオキサゾリンへ変換できることを見出した。従って、酒石酸エステルが両鏡像体ともに入手容易であることを考え合わせると、単一の出発物質から、簡便な方法で任意の立体化学を有する3,4,5-三置換-2-イソオキサゾリンが合成できる。 一方、イミン類への不斉求核付加反応の開発にも取り組み、ジエチル亜鉛とヨード酢酸エステルから調製されたReformatsky型試薬のイソキノリン骨格を有するニトロンへの不斉求核付加反応がエナンチオ選択的に進行することを見出した。さらに、基質としてo-アミノフェノールとアルデヒドから得られる非環状イミンを選び、Reformatsky型試薬による不斉求核付加反応を試みたところ、対応するβ-アミノ酸誘導体が高い光学純度で得られた。この反応では、水の添加が再現性の良い高光学純度の達成に必須である、という大変興味深い事実を見出した。 本研究は立体化学を任意に制御して各種光学活性化合物を合成できる画期的なものであり、有機合成化学に留まらず、医学、薬学、農学などの関連諸分野の21世紀に向けての飛躍的発展に大きく貢献できるものと考えられる。
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