研究概要 |
低スピン鉄(III)ポルフィリン錯体において、一般に鉄の電子配置は(d_<xy>)^2(d_<xz>,d_<yz>)^3で示される。我々は最近、ポルフィリン環が非平面化するとd_<xy>軌道と(d_<xz>,d_<yz>)軌道のエネルギー準位が逆転し、低スピン鉄(III)の電子配置が(d_<xy>)^2(d_<xz>,d_<yz>)^3から(d_<xz>,d_<yz>)^4(d_<xy>)^1に変化することを見いだした。そこで3年間の研究期間で下記の2点を明らかにすることを目標として研究を行った。i)低スピン鉄(III)の電子配置を決定ずける要因の解明、ii)非平面ポルフィリン環を有するマンガン、クロム錯体の電子配置の解明。 低スピン鉄(III)錯体の電子配置に影響を与える要因として、i)軸配位子の配位力、ii)ポルフィリン環の非平面様式、iii)ポルフィリン環周辺置換基の電子的効果の三点について検討した。その結果、i)4-シアノピリジンやtBuNCのように、軸配位子の配位力が弱まるにつれて(d_<xz>,d_<yz>)^4(d_<xy>)^1の寄与が増えること、ii)ポルフィリン環がラッフル変形すると(d_<xz>,d_<yz>)^4(d_<xy>)^1の寄与が増え、サドル変形すると(d_<xy>)^2(d_<xz>,d_<yz>)^3の寄与が増えること、iii)電子供与性置換基は(d_<xz>,d_<yz>)^4(d_<xy>)^1状態を安定化し、電子求引性置換基は(d_<xy>)^2(d_<xz>,d_<yz>)^3を安定化させること、が判明した。次にマンガン錯体について検討した。大きくラッフル変形した(meso-イソプロピルポルフィリン)マンガン(III)クロリドに^nBu_4CNを加えて得られる低スピンビスシアノ錯体について電子配置の決定を試みた。ところが過剰の^nBu_4CNを加えてもビスシアノ錯体だけでなくモノシアノ錯体も共存することが明らかになった。また、モノ体とビス体との比率は溶媒により大きく変化し、クロロホルムの場合にはモノ体のみが、またジクロロメタンではモノ体とビス体が、非プロトン性極性溶媒や非極性溶媒中ではビス体のみが生成するという興味深い現象を見いだした。現在、この溶媒効果の解明とビス付加体の電子配置の決定に関する研究を続行している。
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