研究概要 |
ジフェニルメチレンシクロプロパンは溶液中2,2-ジフェニルメチリデンシクロプロパンへと光異性化することが報告されていたが、その反応機構に関しては全く不明であった。本研究では、この光反応の副生成物として3,3-ジフェニルシクロブテンが得られてくることや、酸素存在下では2,2-ジフェニルシクロブタノンも副成することを新たに見い出した。これらの副生成物は、ジフェニルメチレンシクロプロパンの光1,2-炭素シフトによって発生した2,2-ジフェニルシクロブチリデンから2,2-ジフェニルメチリデンシクロプロパンの生成と競争して生成すると考えるのが最も妥当である。実際、シクロブタノンのトシルヒドラゾンアトリウム塩を光分解してシクロブチリデンを発生させた時にもシクロプロパンと共にシクロブタノンやシクロブテンが副成してくることを確認した。 ベンゾシクロブテニリデンの直接観測を目的としてN-(2-フェニルアジリジル)イミノベンゾシクロブテンのレーザーフラッシュフォトリシスを行った。エキシマーレーザー(XeCl,308nm)のパルス光を照射すると510nmに極大を持つ過渡吸収が観測された。この過渡種は1μs程度の立ち上がりをもって発生し、寿命は17μsであった。酸素やメタノール存在下ではその寿命には変化はないが、初期吸光度が減少する事から、この過渡種は7-メチレン-3,5-シクロヘプタジエン-1-インであろうと推測される。すなわち、パルス光照射直後に生じたベンゾシクロブテニリデンが1μsほどの間に環拡大生成物に転位したとして説明できる。ベンゾシクロブテニリデン自体のスペクトル的観測は成功していないが、ピリジンを添加するとベンゾシクロブテニリデンをトラップして生じたイリドと思われる強い吸収が456nmに観測された。
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