研究概要 |
固相抽出を用いる分析化学の基礎と応用がこの研究の主題である。内容は大きく二つに分けられる。それぞれの成果をまとめると次のようになる。 1.フェニル基を持つ固相へのイオン対の抽出挙動 先の研究でイオン対の水からODSへの分配が水相に溶解した微量の芳香族系溶媒の存在で飛躍的に向上することを見出した。そこで,この研究ではフェニル基結合型シリカゲル(LC-Ph)へのイオン対の分配について分配定数を測定してODSの場合と比較して,その効果を定量的に評価した。その結果,LC-Phの方がODSよりも約4倍捕集力が大きいことがわかった。これは最近Doughertyが提案しているπ-カチオン相互作用が有効に働くためと考えた。イオン対ではなく無電荷成分ではこの関係は逆転する。 2.イオン対膜捕集を利用する環境水中の微量成分の濃縮/定量法の開発 様々な膜素材と計測法を組み合わせた新しい計測システムを開発し,環境水中の微量成分の定量に応用した。 (1)溶媒不溶性膜と可溶性膜を用いる陽イオン界面活性剤の吸光光度定量法 これは素材の異なる二種類の膜を連続的に用いる新しい膜捕集/定量法の展開である。この方法を用いて,河川の底質の陽イオン界面活性剤の動態研究の足がかりを掴むことができた。 (2)溶媒可溶性膜を利用するヒ素及びジチオカーバメイト系農薬の濃縮/原子吸光定量 これは捕集物を膜ごと溶解する方法である。ヒ素に関する研究では,新しい可溶化剤を見出した。また,銅反応性の農薬を原子吸光法で定量するという新しい展開をすることができた。 (3)光透過膜を利用する陽イオン界面活性剤の捕集と吸光光度定量 この方法は有機溶媒を一切必用としない方法であり,ゼロエミッション指向の新しい展開である。 (4)膜捕集と蛍光X線法を組み合わせた陰イオン界面活性剤の濃縮/定量 蛍光X線法で硫黄を分析して陰イオン界面活性剤を定量した。これも溶媒不要の新しい展開である。
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