研究概要 |
精度・正確さ共に優れた信頼性の高い計測値を得るには,定量に先立ち微量元素を濃縮し,多量共存物質を除去することが必要である。本研究では,固相上に静電的に結合させた界面活性剤集合体(アドミセル)を分離媒体として使用した。アルミナ粒子表面は酸性溶液中で正に帯電しているため,ドデシル硫酸ナトリウム(陰イオン界面活性剤,SDS)を強く吸着し,アドミセルが生成した。水中のナノグラム量の各種重金属元素(Ni,Cu,Cd,Pbなど)は,ピロリジンジチオカルバミン酸アンモニウム(APDC)により疎水性キレートに変換後pH2〜6でアドミセルにほぼ完全に回収された。また,ジチゾンを予めアドミセルに含浸させておけば,水試料をアドミセルカラムに通すだけで重金属元素が回収できた。脱着は希硝酸で達成でき,この際SDSはアルミナ上に残留した。アドミセルは酸に安定であり,再利用も可能であった。 アドミセル分離におけるフミン物質の挙動も詳細に検討した。フミン酸,フルボ酸いずれも広いpH領域(pH1〜9)でアドミセルに完全に吸着された。陰イオン界面活性剤の集合体であるアドミセルに,負電荷のフミン物質が捕集されるのは興味深い。これは,フミン物質が正電荷のアルミナ表面にSDSよりもより強固に吸着するためと思われる。重金属のフミン錯体もアドミセルに強く捕捉された。本法は迅速簡便な分離濃縮法であり,ICP-質量分析または黒鉛炉原子吸光分析と組み合わせて合成試料並びに保証値付き水試料の満足すべき分析結果を得ることができた。
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