研究概要 |
本研究では,盗み寄生者として知られるイソウロウグム類の餌捕獲様式の特殊化とそれに伴う生活史形質の進化を明らかにしようとした.明らかにすべき点は,1)日本産イソウロウグモ類の餌捕獲方法と寄主範囲,2)餌捕獲方法の状況による使い分け,3)世代数や産卵数などの生活史形質,4)分子マーカーによる系統樹の作製,である. 1) 餌捕獲方法については,クモ食いおよび餌盗み/糸食いを行う2つのフループに大別された.また,餌盗みを行うフループは,チリイソウロウグモを除いて主に円網に寄生することがわかった.これは,円網の方が寄生が捕獲しない小型餌が多数残されていることが関係していると思われる. 2) ミナミノアカイソウロウグモでは,網に多くの餌がかかっている時期にはもっぱら餌盗みが見られたが,それ以外の時期には寄生の糸食いも頻繁に見られた.糸食いは餌条件の悪い時期の代替戦術であると考えられる.また文献より,立体網に寄生する種は,クモ食いを代替戦術としているようである. 3) 野外調査と従来の知見から,クモ食いの仲間と大型のチリイソウロウグモは基本的に1世代で,アカイソウロウやシロカネイソウロウといった小型の餌盗みないしは糸食いをする仲間は多化性であることが判明した.これには餌の利用可能量が関係していると思われる。 4) 6種のイソウロウグモおよび外群としてオオヒメグモとヒメグモを対称に,ミトコンドリアのチトクローム酸化酵素のサブユニットIについて塩基配列を決し,分子系統樹を作製した.その結果,クモ食いのヤリグモやフタオイソウロウはひとつのクレードを形成した.したがって,クモ食いと餌盗み/糸食いは,それぞれが分岐して進化したと推測される. 以上より,イソウロウグモはクモ食いから餌盗みというより資源が安定的に得られる餌捕獲様式へと転換することで,多化性という生活史を発達させることができたと考えられる.
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