研究概要 |
マツ枯れの流行はマツ,カミキリ,ザイセンチュウの三者の種間相互作用によって,その推移が大きく規定されている.これら3者の間の直接・間接相互作用を取り入れた個体群動態モデルを構築し,マツ枯れの初期侵入,定着,そして空間的な広がりがどのように進展していくか数理的解析をおこなった. (1)マツ枯れの病原体であるザイセンチュウの移動は媒介者であるカミキリの移動を通してのみ行われるため,カミキリの移動分散行動についての生態学的特性はマツガレの空間的伝播過程を決定づける極めて重要な要素である.そこで,カミキリの空間的移動を考慮に入れた数理モデルを構築した.カミキリは羽化するとすぐに移動を開始するが,そのときの移動距離のデータがFujioka(1993),Shibata(1981),Togashi(1989)によって報告されており,それらを総合して移動距離に関する密度分布関数を求めた.これには,通常のカミキリが行うランダム拡散的な近距離分散と人為的に或いは風に乗ってに飛び火的に移動する長距離分散が含まれる.つぎに,両分散を自然な形で組み入れるために,移動距離分布を積分核にした積分微分方程式の枠組みでモデル化を行った. (2)このモデルを茨城県で1971年に突発したマツ枯損の伝搬過程(岸1995)に適用し,伝播過程の詳細なシミュレーションを行った.具体的には,マツ枯れ侵入前のマツ林の分布を2次元の地図上に記録し,この上でマツ枯れがどのように広がるかを実際に起こった分布拡大と対比させながら解析した.その結果,カミキリの短距離移動個体だけでは年間数百メートルしか拡がらないのに対して,長距離移動個体が全体の1割程度存在すれば茨城県で見られた年間4kmの拡大速度が理論的に説明できることが明らかになった.
|