研究概要 |
本研究期間においては、発芽イネ種子における重要な生理現象の1つであるデンプン―ショ糖変換の調節機構について追及し、また、植物ホルモンと代謝糖によるα-アミラーゼ発現調節に関与する情報伝達機構を明らかにすることを試み、以下のような結果が得られた。 1.胚盤組織とアリューロン層におけるα-アミラーゼの発現制御機構は異なることが分かった。アリューロン層におけるα-アミラーゼ発現は、ジベレリン(GA)によって誘導され、アブシジン酸(ABA)によってGAの効果が打ち消された。胚盤組織におけるα-アミラーゼの発現はABAのみでは抑制されないが、グルコースとABAを作用させると強く抑制された。糖によるα-アミラーゼの発現制御においては翻訳以降の制御が重要で、更に、糖はイネ細胞におけるCa^<2+>の吸収を抑えることによってα-アミラーゼの発現を抑制することが明らかになった。 2.ABAは胚盤組織におけるグルコース吸収及びショ糖合成を促進することが分かった。アリューロン層においてもショ糖合成が起こることが分かった。更に、このショ糖合成は、GAによって抑制され、ABAによってGAの効果が打ち消されることが明らかになった。 3.イネ種子の発芽及びα-アミラーゼの発現制御にイノシトール1,4,5-三リン酸(IP_3)-Ca^<2+>情報伝達系が関与していることが示唆された。アリューロン層におけるIP_3レベルはGAによって上昇し、アブシジン酸(ABA)によってその上昇が抑えられることが分かった。イノシトールリン脂質特異的ホスホリパーゼC(PLC)は発芽イネ種子において発現しており、更にアリューロン層におけるPLC発現はGAとABAによって調節されることが明らかになった。 4.以上の結果から、発芽イネ種子におけるデンプン―ショ糖変換調節ジベレリン、ABA及び糖シグナルのクロストークが関与していることが示唆された。
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