研究概要 |
ホウレンソウ葉のネオキサンチンは9'-シス型, カボチャ実のは全トランス型であることを分光学的に確認し,両者を吸収スペクトルとHPLCの溶出時間から区別する方法を確立した. 高等植物から藻類まで約120種の光合成器官, 約60種の花弁や果実の非光合成器官について色素組成を分析し, 特にネオキサンチンが9'-シス型か全トランス型かを分析した. Chl a/bをもつ高等, シダ, コケ, 緑藻, ユーグレナなどの植物の葉緑体には9'-シス型ネオキサンチンのみ存在し、全トランス型は検出できなかった。Chl a/cをもつハプト, 不等毛, 渦鞭毛, クリプト, 原核緑色植物門の藻類, Ch aのみをもつ紅色, 灰色, 藍色植物門の藻類からはネオキサンチンを検出できなかった. 一方, 非光合成器官では9'-シス型のみ, 全トランス型のみ, 全トランス型のみ, 両者存在, 存在しないの4種類であった. 従って, 葉緑体に存在するネオキサンチンは総て9'-シス型で, 全トランス型は存在しないこと示している. ビオラキサンチンからネオキサンチンへの合成とシス異性化が同時に酵素によりなされていると考えられる. 系統発生からはChl bの存在と, 9'シス型の存在が一致したが、偶然の一致か必然性があったかは不明である. ネオキサンチンの機能は明確ではない. 両異性体の吸収スペクトルには差異が少ないので, 光捕集や保護などの機能には差異がないと考えられる. またネオキサンチンは他の生体物質に見られないアレン構造をもつ. この構造は藻類の主要カロテノイドであるフコキサンチン, ペリジニンなどにもあるので, アレン構造の生合成経路の面からも検討したい.
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