本研究は外胚葉が陥入した後に、上皮より切り離されて感性する、線性脳下垂体の発生過程におけるアポトーシスの関与の有無をラット胎仔を用いて調べたものである。脳下垂体原基がラトケ嚢として閉鎖する、胎齢13日の時期を中心に、TUNEL法に基づいてアポトーシスを起こしている細胞を観察し、以下の所見を得た。 1)アポトーシスは、予想通りラトケ嚢が閉鎖する部分の口蓋上皮に集中して見られた。 2)口蓋上皮の正中部分にも、広く頭尾軸に沿ってアポトーシスが認められた。 3)上記のアポトーシスは、ラトケ嚢が上皮から切り離された時には消失した。 4)ラトケ嚢の腹側より伸びる上皮柄には、アポトーシスが認められなかった。 以上、事前の予想通りに腺性下垂体原基が閉鎖して、上皮から切り離される時に一致して、アポトーシスによる細胞死が観察された事は、この現象が原基の形成に深く関与している事実を強く示している。 しかし、細胞死が口蓋上皮そのものに頻度高く観察され、分離する上皮柄の部分に少なかった事から、その意義については当初の「上皮切り出し」仮説を見直す必要があると考えるに至った。腺性下垂体の起源から考えて、口蓋上皮に広く見られた細胞死は、頭部神経に由来し下垂体原基に遊走・進入せずに退化の運命をたどる細胞であろうと推論し、今後の研究を更に発展させる予定である。
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