研究概要 |
種分化における核型分化と外部形態の地理的分化の役割,および種分化の局面における交雑帯の役割を調べることを主目的として,アカサビザトウムシGagrellula ferruginea(クモガタ綱,ザトウムシ目)とその近縁種の核型の地理的分化および染色体交雑帯の性質や形成過程を追及した。主な成果は次のとおり。 1)これまで未調査あるいは調査が不十分だった地域を中心にアカサビザトウムシの日本各地の集団について核型分析をおこなった。山形県周辺。滋賀県〜京都府南部,兵庫県・京都府県境付近が主要調査地である。このうち2n=14-20の幅で染色体数が著しく変異する兵庫県・京都府県境付近では交雑帯の位置の決定につとめた。2)アカサビザトウムシの11の地理型は互いに異所的あるいは側所的であり,2つの隣接する地理型はさまざまな程度の中間型を介して漸次移行する交雑帯で連続する。しかし,広島県西部では九州広島型と大山型の2型間で同所的生息が成立している。今回,広島市近辺で詳しい分布調査と外部形態,核型の比較をおこなったが,両者の差異はかなりはっきりしており,同所的にみられる場合でも交雑の形跡は認められなかった。したがって,両者はほぼ完全に種分化を達成しているものと考えられる。歩脚の体長に対する比は,異所的集団間よりも同所的集団(呉市灰ヶ峰)間で差が拡大している形跡(形質置換)がみられた。3)染色体数や色斑を異にする地理型間で性的隔離が生じているかどうかを確認するため,鳥取県に生息する大山型の染色体数の異なる2集団(2n=14/2n=12)および近畿型(いずれも2n=14)の間で雌雄選択実験をおこなった。その結果,アカサビは2n=14のときを除いて同系交配と異系交配に有意差があり,ある程度距離の離れた2集団間には性的隔離が生じていることが確認された。
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