研究概要 |
シラガゴケ属(Leucobryum)蘇類の配偶体の葉は,大部分が原形質を失った透明細胞からなり,葉緑体をもつ通常の葉緑細胞は葉の内部に一層しかない.葉の大部分は透明細胞に被われた多細胞層の中肋からなる.葉および葉細胞の形は大きく変異し,種レベルの分類は混乱していた.Yamaguchi(1993)は,雌花序の形成位置,茎の中心束,葉先の細胞上端の突出に着目し,アジア産シラガゴケ属蘇類を19タクサにまとめ,日本から7種を報告した.本研究は,これら配偶体の形質による分類が,どのように分子データから裏づけられるかを確かめた. 日本産シラガゴケ属蘇類のうちもっとも形態変異の大きいL.juniperoideumとL.humillimumを材料とし,詳細な形態形質の統計学的解析およびアロザイム多型による集団遺伝学的解析を行った.その結果,両種は中間型が見られ統計学的には判別できず,また遺伝的にも分化していないことが明らかになった. 日本産シラガゴケ属蘇類を材料に,葉緑体遺伝子のITS領域部分の塩基配列データをもとに系統学的解析を行った結果,3つのクレードが認識され,それらはYamaguchi(1993)が着目した形態形質によるグループ分けと一致した. これらの結果から,種レベルの分類では形態形質のみでは不十分な場合がある一方で,系統を反映する共有派生形質が存在することが明らかになった.同様の実験を苔類のゼニゴケ目および蘇類のハイゴケ目で行い,集団内および集団間の遺伝的分化,系統関係を明らかにするとともに,蘇苔植物での同胞種の存在,これまで用いられてきた分類形質の見直しの必要性を明らかにした.
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