研究概要 |
イワタバコ科ウシノシタ属の, 一葉型種, ロゼット型種, 有茎型種, 並びにMonophyllaea属の数種(一葉型種)の個体発生過程を比較し, 極端な異形子葉性である一葉型の進化が個体発生過程の変更によってもたらされたことを明らかにした. 観察した種全てで, 種子内の胚は未熟で魚雷型胚の段階で発生を止めていた. 発芽後, 胚全体で再開される細胞分裂とそれに引き続いて起こる細胞拡大によって子葉の展開と胚軸の伸長が起きた. 子葉においては細胞拡大は求基的に進むので, 両子葉とも展開後期には分裂能力を保持した小型細胞群が子葉基部に残っていた. この小型細胞群が, 一方の子葉ではなお分裂能力を保持して基部分裂組織に分化し, 長期間働くことによって子葉の大型化をもたらしたが, もう一方の子葉では早い時期に分裂能力を失った. 以上から異形子葉化をもたらした形態進化機構は, 子葉の展開過程の時間的変更, すなわち細胞分裂期のスイッチオフの遅れにあると考えられる. 胚軸の下方からは幼根に相同と考えられる第一根が, 2枚の子葉の付け根からは溝分裂組織が形成された. 溝分裂組織は, 有茎型種ではシュートとして発達し, 普通葉と茎を形成した. これに対して, ロゼット型種, 一葉型種では, 栄養器官(普通葉, 葉)を作ることなく, 溝分裂組織自体がゆっくりとサイズを増し外衣・内体構造を示すようになり, やがて生殖茎頂へと分化した. 以上から溝分裂組織は茎頂と相同と考えられ, ロゼット型種や一葉型種では, 茎頂が葉を作ることなく, 直接花序茎頂に分化したものと推定される. すなわち茎頂形成の時間的遅れと, これに起因する発生過程の変更が一葉型やロゼット型の進化の要因と考えられる。
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