研究概要 |
巨大磁気抵抗磁性体のナノ構造制御の基礎検討として、ペロブスカイト型Mn酸化物(LaCa)_<n+1>Mn_nO_<3n+1>系における層数n=2,3,∞のエピタキシャル薄膜の微細構造、次元性と磁気伝導物性の関係を調べた。そこでは、層数nすなわち次元性の低下に伴い、電気抵抗率、強磁性転移温度(T_c)、磁気抵抗(MR)効果などに系統的な変化が生じることを見出した。特に、低次元系のn=2では、3次元系に比べ低磁場で発現するMR効果が著しくエンハンスされること、2次元的な強磁性スピン秩序と異方的な電子伝導の導入が、MR効果の制御に有効であることを明らかにし、この物質系の巨大磁気抵抗効果の機構解明および応用の両面から重要な知見を得た。 また、巨大磁気抵抗磁性体では、電子系-スピン系-格子系が密接な相互作用を及ぼしあうことに着目し、基板との格子不整合による歪みが磁気伝導物性に及ぼす影響について調べた。格子整合性の異なる各種の基板上に成長した薄膜の物性評価から、格子不整合の大きさとその符号に依存して、T_cやMR効果が大きく変化することを見出した。例えば、正の格子不整合では、T_cの低下とMR効果の増大が見られること、特に低次元系のn=2では、格子歪みの影響をより強く受けることなどを明らかにした。一方、透過電子顕微鏡による微細構造観察から、薄膜ドメイン構造、欠陥が格子不整合歪みの大きさと強い相関を持つことも明らかになった。以上の結果は、格子不整合歪みが、この物質系の低次元物性を制御するための新しいパラメーターとなることを強く示唆している。 さらに、巨大磁気抵抗磁性体の持つ高スピン分極率に着目し、強磁性層(F2)/絶縁層(I)/強磁性層(F1)の積層構造を作製し、リソグラフィー技術により微細形状に加工して、トンネル型接合素子を形成した。F1=Mn酸化物(n=∞)、I=SrTiO_3、F2=Co、Feの組み合わせにおいて、トンネル型磁気抵抗(TMR)効果の符号が反転する現象と非対称バイアス電圧効果を見出した。それらは、接合の界面構造に依存した。強磁性層(F2)のバンド構造、スピン分極率を反映しており、符号まで含めた磁性体スピン分極率の定量的解析、および新しいスピンデバイスの実現に向けて、重要な指針となる。
|