研究概要 |
無応力状態で格子欠陥のない結晶格子表面の格子間隔は約0.2nmで安定しており,これは普遍的な長さ基準になり得,原子配列そのものは高い直線性を持つものと考えられる.走査型トンネル顕微鏡(STM)は,実時間大気中で原子配列を捉えることのできる顕微鏡である.そこで,STMを検出器とすれば,結晶格子間隔と原子配列そのものをスケール・直線基準とするリニアスケール(超精密直動機構)が製作可能である.本研究ではこの超精密著駆動機構の開発の可能性追求のために以下の事項を試みた. (1)結晶格子の原子配列をリアルタイムで認識する方法の開発 結晶表面の原子構造に基づく微小傾斜信号を実時間でSTMにより検出し利用することでグラファイト結晶表面の特定原子配列を認識する手法を開発した.STM探針の高速ディザー変調とロックイン同期検波法を用いて結晶格子像のXY軸方向の傾斜信号を得た. (2)STM探針の結晶表面の原子配列を目標とするトラッキング制御の広範囲化 (1)の方法を基にSTM探針をグラファイト結晶表面の特定の原子配列に沿ってトラッキングしながら動かす制御を行った.特定の結晶配列に沿ってSTM探針を最大100nmまで往復運動させる制御にも成功した. (3)原子トラッキング制御を応用した直動機構の試作 グラファイト結晶の特定の原子配列にほぼ平行に動く平行ばねを用いた1軸駆動ステージを試作した.その原子配列を基準に原子トラッキング制御を用いて,直動する機構を追加試作し評価した.この機構で,原子配列を基準におよそ100nm以上の直動性を確保した. 以上の実験を基に結晶表面の原子配列を物理的に認識しピックアップする手法を確立し,結晶格子表面の原子配列を基準とする超精密直動機構の開発の可能性の確認を行った.
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