研究概要 |
歯車などの複雑形状部品を精度良く冷間鍛造できれば生産速度が極めて高まるため,その経済的効果は大きい。本研究は分流鍛造の考え方を基盤として,製品内外周部に共に歯形形状を有するような一層複雑な内歯外歯共有歯形部品の冷間精密鍛造の実現の可能性を検討している。実験室のプレス容量の制約から素材に工業用純アルミニウムを採用した一連の研究から得られることがらを整理するとつぎのようになる。1)従来の単純なすえ込み鍛造において加工力1000KN(平均加工面圧650MPa)を与えても形状の良好な内歯外歯共有歯車を得ることはできない。2)円環素材の内径側上下隅角部に適度な面取りを施し,外側段差加圧(第1工程)・空隙設計・平坦加圧(第2工程)・内側段差加圧(第3工程)・空隙設定・平坦加圧(第4工程)を順次行う4工程成形を実施すれば,加工力650KN(平均加工面圧430MPa)で内歯側と外歯側が完全に充てんした形状の良好な平板形共有歯車が得られる。なお,歯形パンチを縦分割し複動動作させれば,4工程成形は材料を型外から取り出すことなく行え,1工程成形に帰着できる。3)突起付き歯形パンチを用いて内歯側への材料完全充てんを図り(第1工程),突起押し込みによって形成された材料窪み部に材料の逃げ場を与えて,外歯側と窪み部側への材料流動を巧みにバランスさせるブレーキパンチによる加工を行えば(第2工程),平均加工圧面360MPaで歯形彫型内に材料が完全に充てんした形状の良好な内歯外歯共有歯車が2工程で得られる。得られる製品歯幅はモジュールの5倍以上となる。一般の鋼材の純変形抵抗がアルミニウムの5倍と想定すると,素材を鋼材に変更する場合に必要となる充てん面圧は2000MPa以下と推定できる。すなわち,提案する工法は鋼材を素材とする場合にも適用でき,実生産現場での積極的な活用が期待される。
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