研究概要 |
初年度の目標である球状液体膜の分子レベルでの安定化に関する研究を推進するため,数値流体力学的アプローチと,Lennard-Jonesポテンシャルに基づく分子動力学シミュレーションによるアプローチを行った.数値流体力学的アプローチでは,曲線座標変換法に基づく,Navier-Stokes方程式の数値解析を行い,流動する偏心中空液滴の液膜内外の流れを定量的に明らかにした.また,分子動力学シミュレーションでは,多数の分子から成る球状液体膜を平衡状態で形成し,界面の挙動の時間変化を観察し,Legendre陪関数で近似できる線形波動の発生と破断の素となる微細孔発生の確認を試みた. 数値流体力学的アプローチでは,液膜内外の流れを種々物性値条件の下で明らかにできたため,流れの様相と液膜界面の安定性との関連性を今後検討していく上で,非常に重要な基礎資料が多数蓄積された.この結果は,数値流体力学の英文専門雑誌に掲載された.分子動力学的アプローチでは,球状液体膜を平衡状態で安定に設定することが非常に困難であり,新しいシミュレーションテクニックの開発が必要であることがわかった.これは現在も継続中である.液膜の破断現象を解析する前に,Lennard-Jonesポテンシャルに基づく,微細液糸の破断現象の数値解析に成功しており,基本シミュレーションコードの作成が終了していたので,液体糸の破断現象を詳細に吟味し,液体破断現象の基本的原理や,将来液膜の研究をする上での解析テクニックを多数得ることができた.この成果は,米国物理学会論文集に掲載され,専門家より高い評価を得ている. また,報告者は米国機械学会主催の国際会議International Symposium on Computational Technologies for Fluid/Thermal/Chemical Systems with Industrial Applicationsを組織し,熱流体科学に関する最先端コンピュータ利用技術に関する情報収集を行った.本会議には20カ国,約120名の参加者があり,盛会であったので,来年度も引き続き開催することが決定している.
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