研究概要 |
従来の熱工学的領域にない高速の時間スケールであるナノ秒オーダーの熱流体挙動に関して,現象の支配要素となる伝熱特性,相状態,流体特性の相関関係を明らかにし,その物理を解析する実験的研究を行った.実験においては,自由界面を有する液体金属(Hg),及び固体物質(Si)を被加熱物質として採用し,水中あるいは空気中においてナノ秒パルスレーザー加熱を行い,その現象観察や圧力測定,また光学的物性値の温度依存性を利用したPump & Probe methodにより被加熱物質の温度及び相状態を測定した.水銀加熱系においては,水中加熱の場合,加熱レーザー照射領域上において照射直後に水銀または水の急激な相変化が生じ平面衝撃波が形成され,その後同領域に数百μsにかけて半球型蒸気泡が成長し,また加熱後msオーダーの時間においては水銀自身の表面変形挙動が観察される.一方空気中加熱の場合においては加熱直後から照射領域上にプラズマが数μsにわたり形成され,その後消失する.また,プラズマ形成に伴い衝撃波が発生する.水中の場合と異なり,水銀自身の大きな挙動は現れない.次に固体Si面加熱系において,空気中加熱ではその熱膨張や相変化により圧力波が形成される.一方水中での加熱では水銀加熱の場合と同様,加熱直後に衝撃波が形成され,ほぼ水中の音速で伝播する.これはSi表面での水の急激な相変化により誘起するものであり,Si自身の熱膨張の寄与は極めて小さい.また表面での水の相変化・核生成は,界面温度が水の均質核生成温度近傍の温度で生起している.以上の実験結果から,ナノ秒オーダーの水中高速加熱により誘起する熱流体現象に関する伝熱・相状態・流体挙動の相関関係を明らかにした.すなわち,この時間領域においては,伝熱は熱伝導により支配され,放射及び量子伝熱の寄与は極めて小さい.熱伝導により形成された温度場に対し,バルク相物質(この場合は水)の相変化が生じる.この際バルク液体はその慣性により対流は発生せず,相変化による急激な密度変化に対し衝撃波が生起する.また,この相関関係を基に,衝撃波発生の物理モデルを提案した.
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