研究概要 |
噴霧の自発着火挙動は高温空気の流れ場や温度場に著しく敏感で,着火遅れが大きく変化する.このことから,高温空気-噴霧系は初期条件に敏感な複雑系の性質を備えていることが推測された.そこで,平成10年度には,高温空気流中に直角に液体燃料を噴射して,空気流の流速,乱れ,温度などの諸因子が着火挙動や着火遅れに及ぼす影響を調べた.また,対向壁面への噴霧の衝突が,噴霧の着火遅れに及ぼす影響も検討した.その結果,対向壁面への噴霧の衝突を防止すると着火挙動が大きく変化すること,その場合,流速と温度に着火可能下限値が,着火遅れ時間に着火可能上限値が存在し,それらの値は乱れ強さによって変化することが判明した.壁面衝突があると,着火遅れは長引くが,着火可能領域は広くなった. 本年度は,観測窓を通して着火過程を高速度ビデオカメラで撮影し,着火の状況を詳細に検討した.高温条件では噴口付近で着火が生じるのに対して,低温条件では衝突板に衝突した後に着火が生じ,中間の条件では噴口付近と衝突板近傍の2点で着火の生じることが判明した.また,衝突板に衝突した後に着火が起こる場合には,噴射弁より上流で着火が生じている.さらに,OHラジカルの化学発光を使って検出される着火遅れを輝炎の出現時間と比較したところ,前者は後者の半分近くに過ぎなかった.したがって,青炎 (フレームレット) の発生をもって着火とするか,輝炎の発生をもって着火とするかで,着火遅れの値は相当の影響を受けることが判明した.以上を総合すると,着火は噴霧副流部の低流速域で生じるため,高温空気の流速と乱れの影響を強く受けること,対向壁への噴霧先端の衝突は着火過程と着火遅れを著しく変化させること,着火の検出方法は着火遅れのデータに大きな影響を与えること,等が判明した.
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