研究概要 |
本研究では,ヒトの巧みな把握力制御を模倣して,ロボットに適用することを目的としている.そこで,ロボットハンドの把握制御に関連の深い滑り覚のための機械受容単位に着目して,その情報処理機構の解明に必要となる基礎データの蓄積を行う.まず,被検者に既知の滑り力を呈示できる実験装置を製作した.また,被験者の判定結果から閾値や主観的等価値などのデータを得ることのできる心理物理実験法に基づいて実験法を構築した.本研究では,効率良く閾値を求めることのできるPEST法(Parameter Estimation Sequential Testing)を採用して,そのアルゴリズムをプログラム化した.心理物理実験では,アクリル板と精密研磨紙(砥粒径:12μmと30μm)を把握面として採用した.20代の男性8人を被験者とし,滑り力の標準刺激として,2,2.75,3.5,4.25,5Nを採用した.これらの標準刺激に対して閾値を求めたところ,把握面がアクリル板の場合に低荷重領域ではWeber比(標準刺激に対する閾値の比)が0.14となり,標準刺激の増加に伴って減少する傾向があった.これは,滑り力が小さい方が滑り力の検出制度が低下することを意味しており,刺激に対する閾値のふるまいとしては視聴覚などの他の感覚と類似の傾向である.次に,把握面の状態が閾値に及ぼす影響を検討した.その結果,アクリル板の平滑面に対して研磨紙のように摩擦係数の高い面の方が,閾値が低下することがわかった.これは,把握面と指の滑りを発生しないようにするためには,摩擦係数の低い面の方が把握力を増加しなければならないため,圧力を検出する機械受容単位の興奮がノイズとなって滑り覚の機械受容単位の判断に影響を与えているものと思われる.最後に,筋電位と把握の関係を調べた.その結果,把握力と筋電位の間に相関係数0.9以上の相関があった.したがって,今後の把握解析で力センサを用いることが困難な場合には,筋電位をセンサの出力として取り扱うことが可能であることがわかった.
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