研究概要 |
非晶質Fe-Cu-Nb-Si-B薄帯を過時効することにより,ナノ組織中に微量なFe_2Bを析出させた.析出したFe_2Bは磁壁のピニングサイトとなり,薄帯の透磁率を300程度まで低下させることができた.この時の磁気損失は,Mn-Znフェライトコアの3倍程度あるので,開発された薄帯は,エアギャップレスの低透磁率・低損失材料として期待される. 開発された薄帯で作製したコアを対称励磁した際には,励磁前に行う安定化のための励磁条件を制御することにより,その透磁率を所望の値に調整することができた.このことにより,本研究で開発したコアでは,エアギャップを有しないにもかかわらず,ユーザが透磁率を所望の値に調整できる. 直流重畳時の磁気損失を詳細に検討した結果,直流重畳時には磁気損失が増加することが明らかとなった.そこでこの点を改善するために,組成を変えたコアを作成して直流重畳特性を研究した.その結果,磁化回転型の磁化過程を有するコアにおいては,直流重畳時でも磁気損失が増加しないが,磁壁移動型の磁化過程を有するコアにおいては,直流重畳時に磁気損失が急激に増加することが明らかになった. この結果を踏まえ,磁化回転型の磁化過程を有する低透磁率Fe-Cu-Nb-Si-B薄帯を作成し,これを用いて低透磁率・低損失コアを作成した.この結果,直流重畳時も磁気損失の増加しない低透磁率・低損失コアを作成することができた.このコアは,フェライトコアの約3倍の飽和磁化,ギャップ付きMn-Znフェライトコアに勝る透磁率の直流重畳特性,フェライトコアの2/3程度の磁気損失(100kHz,0.1T,直流重畳時)を有していた.
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