研究概要 |
ショットノイズは電子素子における主要なノイズの一つであり,その抑制は実用上重要な意味を持つ.最近では,多数のトンネル障壁を介した場合ショットノイズが抑制される可能性が指摘され,理論的にトンネル障壁をN個多重に直列接続した系を流れる電流のもつショットノイズがフルショットノイズレベルの1/Nに抑圧されることが提案されている. 我々は,最初にこの抑制機構の詳細を調べるために,多数のトンネル障壁を含む試料を分子線エピタキシ装置等を用いて作製した.それを半導体発光素子に直列に接続し,低電流駆動させて発生したサブポアソン光のスクイージング量を利用して評価を行った結果,以下に示すようなことを明かにした. 1)トンネル素子の微分抵抗値が発光素子のそれよりも20倍以上大きいとき バリア障壁数N=5ではショットノイズの1/5,N=10ではショットノイズの1/10になることを示した.これは,ランジュバン方程式により求めたスクイージング量の解析解とほぼ一致することがわかった. 2)トンネル素子の微分抵抗値が発光素子のそれよりも1-5倍程度のとき 上記と同様にバリア障壁数の逆数に相当する分のショットノイズの抑制が期待されたが,実験結果はそこまで抑制されなかった.一つの原因として,この条件ではバリア障壁に電圧がかかりにくく,抑制機構が抑圧されたことが挙げられる.これはバリア障壁においてバックワードポンプの影響が現れたためと考えられる. 以上より,トンネル障壁に十分な電圧がかかる条件のもとでは,N個多重接合したトンネル障壁を介した電流ショットノイズは,1/N倍に抑制できることを実験的に明らかにした.これは,今後の半導体接合を設計する際に有益となるであろう.
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