研究概要 |
本研究では,多様な先験情報を柔軟に援用しながら"信号処理結果の最適性"を保証する新しい"集合論的信号推定法"としてヒルベルト空間で定義された非拡大写像族T_ι(ι∈I)の共通不動点集合F:=∩_<ι∈I>Fιx(T_ι上で凸関数【horizontally divided circle】の最小化を実現するハイブリッド最急降下法を提案し、これを実際の信号処理問題へ応用している。ハイブリッド最急降下法は、回路とシステムに関する最大の国際会議ISCAS'99(Florida)の中で招待講演となったように信号処理分野で"新しい逆問題の解法アルゴリズム"として注目されており、2000年3月に世界中から選ばれた38名の数学者・工学者・計算機科学者・数理経済学者が集う非線形解析のワークショップ(主催:Institute of Advanced Studies in Mathematics,TECHNION,Israel)でも招待講演の栄誉を得ており、今後の応用分野の拡大が期待されている。このようにハイブリッド最急降下法は多くの信号処理問題を解決する汎用ツールとなっているが、これまでは主に、(1)準完全再構成型直線位相フィルタバンクの最適設計問題、(2)ブラインド最適画像復元問題、(3)入力に最も近い記憶パターンを想起する連想記憶ニュートラルネットワークの構成問題、への応用を中心に検討した。以下特に(2)への応用例を具体的に報告する。 画像信号の観測過程では線形劣化歪(Point Spread Function)と加法雑音の影響を受けるため、観測信号から先験情報を用いて真の信号を推定復元する必要となる。特に、生体信号や宇宙空間信号などを観測の対象とする場合、線形劣化歪を既知とする古典的画像復元技術の仮定はほとんど成立しないため、真の信号と線形劣化歪の双方に関する部分先験情報を用いて真の信号を推定する"ブラインド画像復元システム"の実現が重要な課題となっている。ブラインド画像復元技術の高性能化成功の鍵は線形非線形の形で表される多様な先験情報を如何に有効利用できるかにかかっている。本研究では(1)画像のエッジ情報を保ったまま加法雑音の影響を抑える"(非線形)ε分離プリフィルタ"、(2)すべての先験情報を可能な限り同時に満足するよう設計された線形劣化歪の除去用"線形復元フィルタ"という2段階の信号処理システムによってこれまでのブラインド画像復元技術の性能が飛躍的に向上可能であることを明らかにしている。まず、(i)真の画像信号値の非負値性、(ii)被写体を取り囲むおおまかな領域("サポート"と呼ぶ)、(iii)サポート外での背景画像信号値、という現実的な先験情報を最も効果的に反映する線形復元フィルタの設計問題を"非拡大写像の不動点集合上の凸関数最小化問題"として定式化し、これを申請者らが提唱する"ハイブリッド最急降下法"によって解決している。次にε分離フィルタの併用によって加法雑音の影響にロバストな高性能ブラインド画像復元システムが実現されることを示している。
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