研究概要 |
移動体通信は、今日の情報化社会に加速度的に普及し、その重要性は益々高まりつつある。しかしながら、地下街、ビル構内などの構築物内では、電波伝搬特性によりそれらの使用が制限されている。特に分岐・折れ曲がり方向への電波伝搬特性はかなり悪化することが分かっている。遮蔽壁があるトンネル構造の地下構築物空間における電波伝搬におけるこれまでの研究は、一様なトンネル内における伝搬特性の解明、すなわち伝搬モードの減衰特性に関するものが主流であった。本研究では、地下街やビル構内等で基本的な分岐・折れ曲がりと空間をもつ地下構築物を取り上げ、実用的な観点から理論解析と実験的検討を進めようとするもので、従来の研究からの大きな前進を得ることが期待できる。理論的には構築物内の電波伝搬問題にFVTD法(任意の小さい多面体セルに対して、マクスウェルの方程式を体積積分することによって離散化される差分方程式)とレイ・トレース法の導入によるものである、我々は、このFVTD法の適用が2次元の一様トンネルに対して極めて有効であるとの知見を既に得ている。10年度は、円形2次元トンネル内、分岐のあるトンネル内及びビルの廊下等の電波伝搬解析、11年度は、複数のH形分岐をもつ方形トンネル内及び住宅における室内電波伝搬、12年度は、構築物内の任意の場所に線状波源をおいた分岐折れ曲がりをもつ2次元トンネル、すなわち、左右の壁のみの効果についてはFVTD法を適用し、同方形トンネル及びビル構内の伝搬についてはレイ・トレース法を適用して解析した。いずれの年度も理論的な数値計算と並行して、マイクロ波を用いた縮小模型の実験装置を開発してトンネル内伝搬実験を実施することにより、多数のデータを得て,設定問題におけるトンネル内の電界強度分布を明らかにし,理論解析の数値計算結果とよく一致することを実証した。また、コンクリート壁内部に電波伝搬についても理論的にFVTD法及びレイトレース法を適用し、実験ではコンクリート内部の伝搬状態の概略を知ることにより、両者を比較検討することができた。従って,地下構築物内の基本的な分岐折れ曲がりをもつトンネルに対して、FVTD法の有効性を明らかにすることができた.また、分岐折れ曲がりをもつ方形トンネルに対してはレイ・トレース法が有効であることを明らかにした.これらの研究成果については,学術論文,研究会及び学会講演等に発表している.今後は,実際の地下構築物をモデルとした複雑な形状のトンネル3次元問題を理論的及び実験的な両面からの解決を図る必要がある.
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