研究概要 |
本研究では,成層波動場のGreen関数のスペクトルを用いた表現形式を検討すると共に,この表現形式を成層波動場の散乱問題に適用している。Green関数のスペクトルの表現形式については,スカラー波動場を仮定するならば,固有関数の値交関係からGreen関数を離散と連続スペクトルの固有関数に分解することは,比較的容易であった。しかしながら,三次元成層弾性波動場では,Rayleigh波のモードの直交関係式を確立することが困難なことから,スペクトル表現を誘導することは容易ではない。ここでは,佐藤の超関数(Hyperfunction)の概念を用いることで,固有関数の直交関係式を用いることなく,Green関数の誘導プロセスを示すことに成功した。 この成層波動場のGreen関数を散乱問題に適用するために境界積分方程式にGreen関数のスペクトル表現を用いることは,境界積分方程式に固有値問題の視点を与えることにもつながる。この固有値問題の視点はGreen関数に現れるスペクタル積分と境界積分の順序を交換することで得られ,散乱波動場は成層波動場で定義された離散と連続スペクトルの固有関数に分解されることになった。数値計算によれば,局所的な波動の低速度領域の特性は,散乱波の特性に大きな影響を与える。散乱体内の波動の速度が比較的大きな場合には,散乱波は前方へ伝播する傾向を示し,これは連続スペクタルの波動によってもたらされていることが分かった。また,散乱波の散乱体からの放射パターンをスペクトルに分解して調べることも可能となった。散乱体からの散乱波の放射パターンをスペクトルに分解して調べたところ,放射パターンは表面波と実体波の違いで決定されるのではなく,むしろ水平方向に伝播する波動の波数がどのくらいの大きさによるのかで支配されることを見出した。したがって,表面波と実体波の波数が近ければ,放射パターンはかなり類似してくることとなった。
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