研究概要 |
環境同位体を用いた地下環境における物質の動態と起源の解明のために,雨水と雨水が地下に浸透した時の地下水の水質と同位体比の研究を行った.紀ノ川支流の山地小流域において,現地観測を実施し,水の水素・酸素同位体比・化学組成・河川流量に基づいて雨水,沢水,湧水,河川水の水質変化・流出過程について検討した.河川水の同位体比の違いは集水域の標高によること,雨水と河川水の同位体比から,表面流出成分の有無が判ること,沢水と河川水質は,ほぼ同じ化学組成であることが判った.特に,地下水の解析を行う上で,重要な雨水の同位体比については,雨水の同位体比は,1降雨ごとには,大きく変動しているが,平均すると,大阪市,和歌山市,富田林市で同様な変動を示し,値もほぼ等しい.特に,60kmも離れた和歌山市と大阪市の同位体比は,季節,時間変化いずれも同じパターンを示し,値もほぼ同じであった.したがって,観測を行った範囲では,降水をもたらす水蒸気起源は同一で,各地域での1つ1つの雨雲の同位体比にバラツキがなかった.つまり,雲のような小さな単位ではなく,広範囲に雨をもたらす大気水蒸気の同位体比が変化することによって降水の同位対比は変化していると考えられる.1降雨内での同位体比の時間変化は,気温と共に変動した.しかし,1降雨全体での季節変化は,気温などの地域的な気象データとの相関は低く,降雨に関与した水蒸気がもつ同位体比の値が影響していると考えられる.海塩起源の塩素イオン濃度は,3地点の海からの距離に比例しており,酸性物質は,都市部に近いほど高い.春先に,ナトリウム,カルシウムイオン濃度が高くなるが,これは,黄砂の飛来が原因と考えられる.
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