研究概要 |
これまで行われてきた水平振動に対する知覚閾の評価は,実際の生活環境とは隔たりのある状況で行われた実験結果に基づいている。本研究は実状により近い環境条件のもとで被験者に対して振動実験を行い,日常に即した水平振動の知覚閾の評価を模索するものである。 そこで,生活環境で知覚閾に影響を及ぼす周辺要因として被験者の状況や意識に着目し,様々な環境条件を設定した実験を行ってみた。その結果,振動の発生を予知せずリラックスして過ごしている場合には,直前に振動の発生を予告した場合より大きい振動も感じない傾向にある。一方,揺れているに違いないと強く意識する場合には,全体的に振動を敏感に感じる。このような周辺要因の影響による知覚閾のばらつきは振動数範囲で異なる。1.6〜2.5Hz程度では周辺要因による知覚閾のばらつきも個人差も小さい。この範囲より振動数が低く,あるいは高くなるほど,知覚閾における個人差も周辺要因によるばらつきも大きくなる傾向にある。 また,これまで評価の基盤とされてきた体感だけでなく,生活環境では視覚や聴覚が振動の知覚に影響を及ぼすことが,ユーザーに対するヒアリングやアンケート調査を通じてわかった。そこで,体感で振動を感じると同時に窓外の景色の動きが見えるようにした実験を行った。その結果,加速度が小さくても変位が大きい低振動数範囲で体感による知覚閾との差が大きく,窓外の景色が見える場合の方が敏感に振動を感じることがわかった。 これらの結果から,周辺要因を考慮して水平振動の知覚閾を評価し,既往の評価指針と比較することで周辺要因の影響量を位置づけることができた。
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