研究概要 |
本研究は,ナショナル・ロマンティシズム期(1895〜1915頃)のフィンランド建築に焦点を当てて,特にその後期の住宅地計画のあり方を研究したものである。実際には、収集した研究文献や資料に基づき、ヘルシンキのクロサーリ地区とムンキニエミ=ハーガ地区について詳細な分析を行った。 クロサーリ地区は建築家L.ソンク(1870〜1956)が1907年以降に取り組んだもので、小さな島に立地することで独立的な性格を維持し、その内部で自然と近く安定的で心地よい住環境を作り上げている.ただし、ヘルシンキ全体の発展との関係を断ち切る形で実現されたゆえに、地区の閉鎖性が大きな問題となってくる. 一方のムンキニエミ=ハーガ地区は建築家E.サーリネン(1873〜1956)が1915年に計画書を発表したもので、人口統計や交通網の構成などに基盤を置いた合理的な性格を持ち、フィンランドに初めて近代的な都市計画をもたらした内容と評価できる.しかし、全体として壮大な夢に近く、ほとんど実際に建築されることはなかった。 この2つの住宅地計画の違いは、後期ナショナル・ロマンティシズムがもつ特徴をそのまま反映しており、さらにモダニズム以降のフィンランド建築の独自の発展を生む基盤を用意したものと考えられる。すなわち、近代建築の出発点として「都市」のみならず「原生林」も想定しようとする姿勢である。こうした点に、フィンランドのナショナル・ロマンティシズム建築の独自性を見出すことができ、特に住宅地計画は今後さらに分析対象として重視されるべきだと考えている。
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