研究概要 |
研究課題の「クラックからの遮蔽転位の生成機構」を解明するため,岩塩型構造のMgOの結晶,NaCl結晶,および,ダイヤモンド型構造のSi結晶を用いて,透過電子顕微鏡観察,原子間力顕微鏡(AFM)観察およびその結果に対する計算機解析を行った.得られた研究成果は,次のように要約される. 1.転位は,厚い結晶の場合,クラック先端線を含む蝶番型面上に放出されるが,薄い結晶の場合,クラック先端線と交切する面上に放出される. 2.クラック先端からの転位半ループの生成によって転位が放出され,薄い結晶での交切面への転位放出の場合,クラック先端と試片表面の交点,クラック先端線のジョグおよびキンクノの箇所から半ループ転位が生成され,クラック先端から外側方向へ湾曲しながら拡張することを指摘した. 3.転位は,クラック先端からその前方に導入されるのみならず,その後方にも導入される. 4.同じミラー指数の面に導入された転位を比較すると,クラック先端前方へ導入された転位と後方に導入される転位とは転位の符号が逆である. 5.いずれの場合もクラック先端から放出された転位群は,主にモードIのクラック応力場を遮蔽するタイプの転位から構成される. 6.NaCl結晶の高温での靭性上昇の原因を探るため,原子間力顕微鏡を用いてすべりを観察した結果,高温で生ずる交差すべりは,微視的に不定面で生ずることを明らかにし,クラック先端から生じた転位半ループがクラック先端に沿う不定面交差すべりによって拡張し,クラック先端の全面を遮蔽してクラック進展を抑制することを指摘した.
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