研究概要 |
金属中に重い稀ガス原子(Ar、Kr、Xe)を多量にイオン注入すると、室温でも高圧状態の稀ガズ原子固体が形成される。これは、しばしば固体バブルとも呼ばれる。面心立方および六方晶金属中では母体と同じ結晶構造を持ち、結晶方位は母体結晶と揃っている。このバブルが形成されると、電子顕微鏡、電子線回折法等で観察可能となり、その成長、移動、構造等が調べられているが、形成の初期段階(核形成)は観察できないため調べられていなかった。そこで、我々は、これまで、イオンチャネリング法により、面心立方金属につき、イオン注入後のここの稀ガズ原子の結晶格子内位置、および、それらの注入量に対する変化を調べることにより、バブル形成の初期段階(核形成の過程)を調べてきた。本研究では、体心立方結晶を取り上げ、イオンチャネリング法により、バブル形成の核形成の過程を調べ、面心立方金属についての結果と比較する。 試料はFe単結晶で、これに150keVのXe^+を1×10^<14>、4×10^<14>、1×10^<15>、1×10^<16>Xe/cm^2の種々の量、イオン注入し、Xe原子の格子内位置を決定するため、1.5MeV He^+ビームを用い、後方散乱チャネリング実験を行った。Xe原子の大部分は格子置換(S)位置およびランダム(R)位置を占める。注入量が少ない時には、その割合は少ないが、格子間四面体(T)位置、格子点から<111>方向に0.085nmずれた(D)位置にも存在する。TおよびD位置占有はXe原子と注入の際形成された原子空孔(V)との相互作用の結果で、それぞれ、XeV_4複合体、および最近接格子点に空孔が存在する結果Xe原子が<111>方向にずれているXeV複合体と考えられる。R位置はさらに多くの空孔と複合体を形成しているXe原子に対応している。これまでに、メスバウアー効果の実験でもXe原子が内部磁場の異なる4種の位置に分布していることが報告されていたが、本実験結果を考慮すると、それらは内部磁場の小さくなる順にS,D,T,R位置に対応付られる。注入量の増加と共にS,TおよびD位置を占める割合は減少し、R位置を占める割合ば増加する。この結果は、注入の初期段階でXeV、XeV_4のようなXe原子と空孔との複合体が形成され、これが核となってXeバブルへと成長することを示唆している。Xeバブル形成のためにXe原子の移動が必要とされるが、その機構としてXeV_3の形での移動を提案した。一方、面心立方金属A1中のKrの場合は、体心立方金属の場合とは異なりKrV_4、KrV_6型の複合体が核となる。面心立方結晶中では稀ガス原子が母相と方位を揃えて結晶化するが、その機構を考慮すべく、現在、A1中のKrにつき注入量をさらに細かく変化させKr原子の格子内位置を調べている。
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