研究概要 |
本研究では,最も普遍的な疾病の一つである貧血症の簡便な診断を目的として,表題の目視テスト法の開発を行った.従来,全血中のヘモグロビン濃度は,繁用法であるシアノメトヘモグロビン吸光光度法によって測定されているが,測定装置を必要とする点,またシアンを含む廃液の処理等に問題があり,検診や診療の現場における簡便なスクリーニングヘの適用は不可能であった.このため,機器や熟練の技術を必要としない迅速な簡易測定法の開発が望まれていた. 本法は,特定の色素が水溶液ドロップからC18修飾(ODS)シリカ薄相プレート上へ,リング状に分配する現象に基づくものである.液滴からのリング形成に関しては,物理化学分野で金属などの固体粒子がドロップの乾燥によってリングを形成することが報告されているが,溶質については我々の一連の分析化学的研究が最初の事例である.さらに本研究では,乾燥に依らず,特定の溶質がリング状の濃度勾配をもって液滴円周部(固相-液滴-空気から成る三相界面)に分配する新現象が見出され,ヘモグロビンの目視テストヘ応用された. 具体的な操作の概要は次の通りである.全血2μlに,3.5×10^<-6>mol dm^<-3>ローダミンB水溶液58μlを加える.この溶液50μlをODSプレート上へ滴下し,5分間静置した後,暗所でUVランプ照射下,黒色を呈する液滴内を肉眼で観察する.底部に蛍光リングが透視された場合,貧血試料と判定する.本法は,少量(2μl)の採血で,装置や特殊な器具を必要とせず,貧血診断のためのスクリーニング法としての実用性を有している.
|