研究概要 |
本研究は光機能性ガラスとして注目されている低フォノンTeO_2系およびBi_2O_3系ガラスに焦点を当て、ガラス転移域での粘性測定、示差走査熱量計(DSC)による比熱測定、ビッカース硬度測定などを行い、これらのガラスの特異な構造緩和機構を明らかにすることを目的とする。得られた成果は次の通りである。1)R_2O-MO-TeO_2系ガラス(R=Li,Na,K,M=Mg,Ba,Zn)の結晶化に対する熱的安定性は光学的塩基度が大きく異なる組み合わせ(K_2O-MgO,Li_2O-BaO)において顕著に増加する。2)K_2O-MgO-TeO_2系ガラスのガラス転移域での比熱変化【right filled triangle】)C_pは約45J/molKでという大きな値を示すことから、ガラス転移域で網目構造の切断が容易に起こり、原子間の再配列が顕著に起こる。この特徴はビッカース硬度の室温における値(〜3GPa)とガラス転移域での急激な減少にも現れる。3)構造緩和の活性化エネルギー(エンタルピー緩和)は900〜1250kJ/molであり、通常のSiO_2系ガラスと比べて極めて大きい。粘性流動の活性化エネルギーは500〜750kJ/molであり、フラジリティの値は60程度である。ビスマス系ガラスにおいてもエンタルピー緩和と粘性流動の活性化エネルギーの違い、すなわち、デカップリングが顕著に観測される。これはSiO_2系ガラスとは全く異なる特異な構造緩和現象であり、ガラス転移域での粘性流動が網目構造の切断(主緩和)のみではなく、他の修飾イオンの動き(副緩和)にも顕著に依存していることを示している。4)ビスマス系ガラスもテルライト系ガラスと同様にガラス転移域で原子間の再配列が容易に起こる極めてフラジャイルなガラス形成系である。5)本研究によって、たとえば光増幅用TeO_2系ファーバーの製造に必須な種々の情報を提供し、同時にガラスの最も本質的な現象である"ガラス転移"と"構造緩和"を従来のSiO_2やB_2O_3といったガラス系ではなく全く異なった挙動を示すTeO_2系およびBi_2O_3系ガラスからのアプローチによりそれらの本質に迫ることができた。
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