研究概要 |
超臨界二酸化炭素は極性の無い反応媒体であるが,反応基質,触媒,酸化剤を強力に反応系中に拡散せしめることによって反応の効率を高めることが期待できる.超臨界流体中(二酸化炭素)でのアルカンの官能基導入のための遷移金属触媒の開発を目的として,メタン分子への官能基導入反応の検討を行った. 1)バナジウム含有ヘテロポリ酸触媒を用いるメタンの部分酸化反応:メタンをトリフルオロ酢酸溶媒中で触媒としてバナジウム含有ヘテロポリ酸触媒を用い,酸化するとトリフルオロ酢酸メチルが収率よく生成する反応を見出した. 2)メタンの一酸化炭素によるカルボキシル化反応:超臨界二酸化炭素で反応を行う前にモデル実験として以下の反応を行った.メタン5気圧と一酸化炭素20気圧の混合ガスをトリフルオロ酢酸中で触媒量のバナジウムアセチルアセトナート[VO(acac)_2]及び酸化剤として過硫酸カリウム存在下に80℃,反応させるとメタン基準95%収率で酢酸が生成する反応を見出した.更に本反応を詳しく検討した結果,反応溶媒を多く用いることで,メタン基準の収率は向上するものの,その際の活性化エネルギーから反応は拡散律速となっていることが判明した.また反応溶媒を少なくして反応を行うと,メタン基準の収率は低下するものの,高い活性化エネルギー値を示し,またCH_4/CD_4の同位体効果(k_H/k_D=2.9)から触媒がメタンのC-H結合を活性化する段階が律速段階であることが明らかになった.また上記2反応の系中で触媒活性種としてVO(OCOCF_3)_3が生成していることを見出した.この錯体はトリフルオロ酢酸とVO(acac)_2を加熱撹拌するだけで合成することのできる新規な錯体である.そこでこの錯体を触媒として,反応媒体として超臨界二酸化炭素を反応媒体として用いてメタンの部分酸化及びメタンのCOによるカルボキシル化反応を行った.その結果VO(OCOCF_3)_3の超臨界二酸化炭素に対する溶解度が極めて低くいずれの反応も進行しないことが判明した.恐らく,トリフルオロ酢酸から単離したVO(OCOCF_3)_3はオリゴマー状として存在し,トリフルオロ酢酸でのみモノマー状になり高い触媒能を有するものと考えられた.今後オリゴマー状の錯体を如何にして超臨界二酸化炭素中で解離せしめるかの検討を行う必要があると考えられる. 3)超臨界二酸化炭素中でアルカンのカルボキシル化反応を行う上で更に高い活性を示す触媒の探索をモデル実験としてトリフルオロ酢酸中で行った.その結果,酢酸コバルトが高い活性を示した.プロパンのカルボキシル化反応に関しては89.5%の高い収率が得られた.
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