研究概要 |
疎水性メチレン鎖の両末端に親水部としてそれぞれ6個の水酸基を持つボーラ型両親媒性カスケード分子は,ヒドロゲルを生成することが報告されている。各種観測から,ダンベル型のカスケード分子が水中で水素結合と疎水相互作用により,直交あるいはらせん状にスタッキング(自己組織化)して繊維状の集合体となり,ゲルを生成すると推定されている。そこで,コアとして芳香族π電子系化合物を含む新規なボーラ型カスケード分子を合成し,自己組織化によるナノスケールの集合体を構築できれば,コアのπ電子系をスタッキングにより配列させ興味ある性質の発現が期待でき,新しい応用研究への材料を提供できると考えられる。本研究ではπ電子系として最も簡単なベンゼンを選び以下の研究を行った。 ベンゼンのパラ位に水酸基をもつヒドロキノンとα,ω-ジブロモアルカンから3段階でベンゼン環をコアとしてメチレン鎖の両端に6個の水酸基を持つ新規なカスケード分子を合成した。メチレン鎖の長さが4,6,8のカスケード分子を水に加え,加熱して均一溶液とした後室温まで放冷したところゲル化した。一方メチレン鎖10ではゲル化しなかった。また,メタ位に水酸基をもつレソルシノールから出発して,同様の方法で合成したメチレンの鎖6のカスケード分子もゲル化することがわかった。ゲルの電子顕微鏡観察を行ったところ,いずれも繊維状の集合体の形成が観測された。ゲル化しないフェノールをコアとし親水部を一つ持つカスケード分子の吸収極大は濃度を変化させても一定であった。一方,ゲル化したヒドロキノンをコアとするカスケード分子では,濃度を増加させると長波長にシフトした後,一定となった。したがって,集合体ではπ電子系が相互作用していることが分かった。
|