研究概要 |
イネ根の形態や伸長に関する突然変異体を用いて植物根の伸長性に関わる遺伝的プログラムの解明を試みた.得られた成果の概要は以下のとおりである. 突然変異体srt5,srt6,srt7及びsrt8幼植物の根長はそれぞれ野生型の5%,50%,60%及び70%であった.細胞組織学的な観察は,4つの短根遺伝子が細胞及び組織の発達に影響を及ぼさないことを示したが,細胞伸長異常がsrt6,srt7及びsrt8で見られた.srt5の原因遺伝子は第2染色体上にマッピングされた.幼苗期のsrt5では種子根,冠根及び側根の伸長が著しく抑制され,根毛発達も異常であった.種子根先端の組織学的観察は,短根が細胞長及び細胞数の減少によるものであることを示した.植物の生育が進むにしたがってsrt5の根は急速に伸長し,出穂前には完全に回復した.srt5の種子根長は外性ABA処理によりある程度回復したことから,srt5にはABA生合成に異常があるものと考えられる.srt5の根伸長が2,4-D, GA3及びKINに強い耐性も示したことは,srt5の野生型遺伝子が植物ホルモン恒常性の変化による初期の根発達に重要であると考えられる. 単因子劣性の突然変異に起因する無根毛突然変異体RH2は低草丈及び短根などの点でも野生型と異なっていた.土耕栽培での水分ストレス条件下及び水耕栽培での高浸透圧条件下の蒸散量では,RH2と野生型との間に顕著な差はなかった.また,リン吸収量でも両者の間に有意な差はなかった.これらの結果は,根毛が水分及びリンの吸収に関与しないことを示唆している.NAA処理によってRH2に非常に短い根毛が発生したことは,RH2の無根毛が内生オーキシンの不足に起因することを示唆した. 単因子劣性の突然変異に起因するNAA耐性突然変異体RT62はABAにわずかな耐性を示したが,2,4-D及びIAAには耐性を示さなかった.RT62は低草丈,短種子根及び短冠根,多側根及び長側根,及び小胚などの様々な形態的変化を示した.組織学的観察は,RT62の短種子根が細胞数よりもむしろ細胞長の減少によるものであることを明らかにした.
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