研究概要 |
これまでの実験から,イチゴクラウン組織から抽出したペクチンでは,マウスによるペクチン抗体の作成は可能だが,抗原抗体反応の感度が悪く,花芽分化の診断技術への応用は難しいことが明らかになった.そこで,花芽分化に伴いクラウン内に蓄積されるペクチンを,直接確認することによって花芽分化の診断が可能かどうかについて検討した.実験は品種間差を確認するため,「とよのか」,「愛ベリー」,「麗紅」および「盛岡16号」を供試した.各品種の花芽分化段階を顕微鏡下で観察したあと,クラウンを500mgに調整してFAA固定液に浸漬した.クラウンを入れた固定液の変化を固定後2日目に肉眼で観察したあと,固定後14日目にFAA液を遠心分離し,得られた沈澱物を減圧乾燥して乾物重を秤量した.その結果,いずれの品種とも花芽分化段階の分化期(Differentiated)から雌ずい形成初期(Early stage of pistil differentiation)に至るまで,クラウン内にかなり多量のペクチンが集積し,固定液中に沈殿するゲル状のペクチンも肉眼でもはっきりと確認できた.花芽分化診断のためには出来るだけ分化初期に判定する必要があるが,いずれの品種においても分化期でのペクチンの集積量は5mg/500mg程度で,FAA10mlに対してクラウン500mgを3個体分浸漬すれば,2日後にはゲル状沈澱物をはっきりと確認できる.本研究において,抗原抗体反応による花芽分化診断技術を確立することは出来なかったが,花芽分化に伴うクラウン内のペクチンの集積をFAA固定液で確認することによって,花芽分化の開始を推察できる.
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