研究概要 |
本研究者は,球体に動物を乗せてその移動運動を自動的に補償し,その軌跡を記録する「移動運動補償装置」を我が国で最初に完成させている.今回の研究ではその装置をさらに発展させて,昆虫の定位行動の仮想現実実験をおこなった.すなわち,移動運動パラメターの演算結果を空間モデルに参照し,それにもとづいて風や匂いの定位刺激をリアルタイムに制御して,虫を仮想的に設定した目標へと誘導する実験である.ある空間モデルのもと,供試虫を目標に誘導できたならば,そのモデルの妥当性が証明できたことになる.この研究を可能にするためには,装置をより正確かつ高速に制御することが不可欠となり,結局,機器,コンピュータハードウェアの根本的な見直しをおこなった.さらに,リアルタイム制御のためのドライバーソフトウェア,また軌跡の統計処理とグラフィック表示おこなうデータ解析ソフトエアの大幅な機能拡張など,実用に向けての多くの技術的課題を解決した.その結果,高速かつ高分解能で移動運動を補償できる装置が完成し,リレーモデュールによる電磁バルブのリアルタイム制御により,虫の動きに応じた匂い刺激の制御が可能となった.次に,移動運動補償装置を使って,性フェロモンに反応したカイコ雄成虫の羽ばたきがフェロモン源への定位に果たす役割を検討した.翅を処理した個体の軌跡などから,羽ばたきによる前方の雰囲気の吸引が,フェロモン源へのベクトルの取得に決定的役割を果たしていることが示唆された。そこで仮想的に設定した目標を向いた時にだけフェロモンパルスを与える仮想化学空間を設定したところ,翅の有無かかわらず目標への誘導に成功した。このように刺激空間モデルのひとつを実証できたことから,所期の目的は充分に達成することができたものと確信する.
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