研究概要 |
この研究では、ヒエ属植物の種子休眠性の遺伝様式を交雑実験の手法によって解明することと、分子生物学的手法によって休眠に関与する遺伝子の単離とクローニングすることを目標とした。 1.種子休眠性をもつ雑草型と休眠性を遺伝的に欠損した栽培型のタイヌビエの正逆交雑し、F_2個体が生産する種子の発芽率を個体ごとに調査することによって休眠性の遺伝様式を推定した。この結果、タイヌビエの種子休眠性には優生とする2対の主動遺伝子の存在が示唆された。 2.タイヌビエとヒメタイヌビエの休眠種子、自然休眠覚醒種子、KCN処理で休眠覚醒したタイヌビエ種子と栽培ヒエの非休眠種子を供試して休眠種子に特異的なmRNAのcDNAをDifferential display法で検索した。この結果、二つの休眠特異的なcNDA、すなわち、EcD400とEcD700が検出された。また、EcD400とEcD700をノーザン解析したところ、休眠覚醒種子でもそれらのmRNAの発現が100%阻害されているのではなく、休眠種子に比べてかなり量的に抑制されていることが明らかとなった。クローニングされたEcD400とEcD700の塩基配列をデータ・ベース検索した結果、EcD400と高いホモロジーを示す既知のタンパクは検索されなかった。一方,EcD700のホモロジー検索では,さまざまな生物種のミトコンドリア内のATP合成酵素(H^+-ATPase、EC3.6.1.34)のαサブユニットが高い相同性を示した。 3.交雑実験と分子生物学的解析は、ともにヒエ属植物の種子休眠性には2つの遺伝子が関与することを示し、その一つがミトコンドリアのH^+-ATPaseをコードする遺伝子ある可能性も示唆された。この知見と我々のこれまでの研究成果を合わせ考えると、ヒエ属植物の種子は好気呼吸によって休眠を維持し、嫌気呼吸能を高めることによって休眠から覚醒するとする考えられた。
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