研究概要 |
大型鱗翅目昆虫の一種である天蚕について採取地の異なる8系統を供試し,孵化直後幼虫の捻転運動を観察したところ,系統間に明確な差は認められなかった。この捻転運動の回数は孵化直後で11〜15回であったが,以後、脱皮直後幼虫の捻転運動回数は齢が進むにつれて減少し、4眠脱皮直後の5齢幼虫では4回程であった。柞蚕,ヒメヤママユ,クスサンおよびオオミズアオについて捻転運動の回数を観察したところ,種による差異が認められ,捻転運動は大型鱗翅目昆虫にとって種の特徴を示す重要な行動の一つであると考察された。 カイコ幼虫の行動について、孵化後活発に広がっていく分散性の強い品種と不活発な分散性の弱い品種があることが知られている。この暗中での分散性は個体間および1蛾から生じた子の集団間で大きな差異があることが明らかになった。そのため、孵化幼虫の分散性強系統と弱系統において、それぞれ蛾区選抜を繰り返し、分散性の強いD1系統と弱いD2系統を固定した。そこで、これら系統の孵化直後幼虫の混合区において、行動の活発な個体を選別する方法を検討した後、D1とD2との交雑実験を行った。その結果、孵化幼虫の暗中での分散性は行動を活発にする劣性的に働く主遺伝子によって支配されてることが明らかとなった。さらに、D1とD2との交雑F_1雌にD1雄を戻し交雑したBF_1区においては、拡散行動を活発にする遺伝子dhは第2,第5および第14連関群とは独立であることが確認された。また、このBF1区において、行動の活発、不活発選な個体選抜区の老熟幼虫の拡散係数を調査したところ、分散性強個体選抜区の平均が9.81、不活発な個体選抜区で2.74となり、老熟幼虫の分散性においても孵化幼虫と同じ遺伝子が関与している可能性が示唆された。現在、これら一連の実験で樹立された分散行動に関する分離モデルを用いて、DNA標識によるdh遺伝子の座位決定を試みている。
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