研究概要 |
麹菌(Aspergillus oryzae)の菌体内には、DNAとRNAの両方を基質とするヌクレアーゼOとその特異的阻害蛋白(インヒビター)が存在し、両者はKi=3.2x10^<-12>で強固に結合し不活性体となるが、麹菌の培養の長期化に伴う菌体の老化、あるいは酸素欠乏による菌体の自己消化の際には、プロテアーゼの作用によってインヒビターが分解され、ヌクレアーゼが活性化される(T.Uozumi et al.,J.Biol.Chem.,251,2808(1976))。ヌクレアーゼOについては、すでにその遺伝子のクローン化を報告した(M.Sano et al.,Curr.Genet.,30,312(1996))。本研究では、麹菌の菌体内におけるヌクレアーゼの生理的役割を解明することを目的として研究した。 ヌクレアーゼOの遺伝子を破壊した変異株を作成したところ、この株は野生株とほぼ同様の生育を示したので、この酵素は麹菌の生育にとって必須ではないことが示唆された。動物細胞のアポトーシスの際にDNAの分解が促進される機構として、caspaseによって活性化されるDNase(CAD)とその特異的インヒビターICAD(inhibitor of caspase-activated DNase)が最近注目されている。CADとICADは、通常は不活性な複合体として存在するが、アポトーシスのおこるときには、caspase-3によってICADが分解されてCADが活性化され、染色体DNAの分解が引き起こされることが報告されている。ヌクレアーゼO(等電点、pI=10.0)とそのインヒビター(pI=4.1,熱安定)の物理的性質がCADとICADによくにているので、麹菌の自己消化の現象が動物のアポトーシスに対応する可能性がおおきい。この点について今後さらに研究する必要があると考えられる。
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