研究概要 |
ヒト血清アルブミン(HSA)のグルタルアルデヒド(GA)修飾物(pHSA)は生体内におけるHSAの翻訳後修飾反応のモデルとして位置付けられる.本研究では,pHSAに対するポリクロナール抗体,並びにモノクロナール抗体を作製し,免疫化学的な手法により,生体内においてHSAの修飾に関与している化合物の検索を行った. 初めに,pHSAをマウスに免疫して,HSAには結合せず,pHSAにのみ親和性を示す抗体が発現することを確認した.高い抗体価を示したマウスから抗血清を得ると共に,そのマウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞を融合させハイブリドーマを得ることでモノクロナール抗体を作製した.得られた両者の抗体はGAとアミノ基との反応で生成するピリジニウム骨格をエピトープとして認識した.生体内に存在する様々なカルボニル化合物をHSAと反応させ,抗体との反応性を調べたところ,グリオキザールでは結合性が認められなかったのに対して,グリコールアルデヒド,グリセルアルデヒド,マロンジアルデヒド(MDA)とHSAとのメイラード反応物が高い抗体結合性を示すことが判明した.最も強い結合性が確認されたMDAとHSAリジン残基のアナログであるN-アセチル-グリシル-L-リジンメチルエステル(AGLME)との反応生成物を用いて,本抗体が認識するハプテン構造の解明を試みた.その結果,AGLME2分子とMDA4分子から生じる反応生成物に対して抗体の結合が確認された.反応物の構造決定には至らなかったが,既報で得られているMDA-AGLME反応物の化学的特性との比較から,その構造中に含窒素複素環構造が含まれている可能性が高いものと推察された.以上の結果から,生体内においてpHSA類似構造は,HSAが種々のカルボニル化合物の修飾を受けることで形成されることが明らかとなった.
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