研究概要 |
腸管出血性大腸菌O157の未洗浄菌,水洗浄菌について種々の溶液中で-20℃凍結貯蔵後の生残率をTSA培地(ある程度の損傷菌は回復し,コロニー形成可能),CT-SMAC培地(セフィキシム,亜テルル酸カリウムを含むため,損傷菌はコロニー形成できない)で測定した.その結果,未洗浄菌は,生理食塩水中で生残率が高かったが,逆に洗浄菌ではもっとも低い結果となった.水,リン酸緩衝液およびTSB培地中での生残率の低下は,未洗浄菌よりも洗浄菌で小さく,水でO157を洗浄すると凍結耐性が高くなることが分かった.種々の濃度のリン酸緩衝液中で凍結貯蔵すると200mM以上で生残率の低下はもっとも小さく,200mMでは特に菌の損傷も少なかった. 次に,pHの影響について調べた結果,未洗浄菌ではpH3および3.5で菌の損傷が大きかった.-20℃で3日間凍結貯蔵後にはpH5.5〜6.5で生残率が高かった.水洗浄菌の生残率は未洗浄菌よりも高かった.pH6以上の緩衝液中で凍結貯蔵後には約7.9kDaの菌体蛋白質バンドの減少が観察された.また,同様に凍結貯蔵すると12.5kDaの菌体蛋白質量が増加した. 膜透過性の異なる2種の蛍光色素で分別染色し,顕微鏡観察により測定した非損傷菌数とコロニー形成率を測定して凍結貯蔵後の菌体の損傷について検討した.その結果,最もpHの影響の少ないpH6.5で3日間凍結貯蔵後には,未洗浄菌体(定常期)では,蛍光染色により非損傷菌と判定された菌のうち約70%はTSA培地でコロニー形成できなかった.これに対して,水洗浄菌体(定常期)では,蛍光染色による非損傷菌数とコロニー形成可能菌数はほぼ一致した. これらの結果より,腸管出血性大腸菌O157は,一旦,水環境中に放置されると凍結耐性を増加させる可能性が示された.また,牛肉などの栄養豊富な食品に付着して存在している場合には凍結貯蔵後には通常の培養法では約70%のO157を検出できない可能性があることも明らかとなった.
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