研究概要 |
広島県比婆郡高野町のアカマツ林分において,ニセマツノザイセンチュウ(弱毒性線虫)の発生様式を調査した。その結果,本種は林分内で種内競争や種間競争によって枯れ始めたマツまたは降雪による幹折れのために枯れ始めたマツを利用して繁殖していた。本種は主にカラフトヒゲナガカミキリによって媒介されていた。調査林分を含む地域にはマツノザイセンチュウ(強毒性線虫)が分布していたが,その分布高度は上下に隔年で変動していた。ニセマツノザイセンチュウが優占する地域で,アカマツにマツノザイセンチュウを接種して枯らしたところ,カラフトヒゲナガカミキリが産卵に利用した。そして,そのカミキリはニセマツノザイセンチュウを保持して木から脱出し,強毒性の線虫が弱毒性線虫に置換することが示された。カラフトヒゲナガカミキリ成虫に保持されたニセマツノザイセンチュウの離脱はカミキリが木から脱出してから15-40日の間に多く見られた。また,マツへの線虫の伝播はカミキリが木から脱出してから20-40日の間に多く見られた。マツノマダラカミキリからマツへのマツノザイセンチュウの伝播に及ぼす温度の影響を実験的に調べたところ,気温が低下するにつれて,カミキリの寿命は短くなり,線虫の伝播効率は低下し,伝播曲線のピークは遅れ、しかもピークの高さが低くなった。これらのことから,冷温はマツノザイセンチュウの伝播過程を妨げることによって,冷涼地における材線虫病の流行抑制に寄与すると考えられた。実験室で媒介昆虫にマツノザイセンチュウを保持させる簡単な方法を開発した。この結果,病原力と伝播力の関係を実験的に解析できるようになった。
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