研究概要 |
付着性の管棲多毛類エゾカサネカンザシHydroides ezoensis幼生をモデルとして、付着生物幼生の着底、変態を誘起する化学因子を種々検討した。その結果、同種の棲管塊のMeOH抽出物から、幼生の変態を誘起する物質として、ドコサヘキサエン酸のモノアシルグリセリドである1-(4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-docosahexaenoyl-glycerol(以下DHAMGと略記)を単離、同定した。このことは本種が天然において示す「群居性」が、この物質を根拠に成立していることを示すものと考えられる。関連物質として、各種の遊離脂肪酸、そのグリセリド等にも活性が認められたが、活性の発現はアシル基の不飽和結合の存在と数に依存し、グリセリドの方が活性が高かった。 人為的な変態誘起因子として、神経伝達物質とその前駆体であるアドレナリンとL-3,4-dihydroxyphenylalanine(以下L-DOPAと略記)に変態誘起活性があることが判明した。哺乳類では活性がない光学異性体のD-DOPAでもやや低い活性が認められたことから、哺乳類のドーパミン受容体とは異なる受容体の関与の可能性も考えられた。またアドレナリン受容体の各種アゴニストについて検討した結果、哺乳類で知られているα_1、α_2、β各型の受容体に特異的な反応を示さなかったことから、やはり哺乳類とは異なったタイプのアドレナリン受容体が関与している可能性が推察された。 人為的な変態誘起因子としては、海水中のK^+あるいはCa^<2+>イオン濃度の上昇も有効であった。逆にCa^<2+>イオン濃度を1/2に低下させるとL-DOPAによる変態誘起が阻止されたことから、Ca^<2+>イオン濃度の上昇による変態誘起はカスケード反応のより下流にあることが判明した。
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