| 研究概要 |
本研究は、海産魚の卵成熟誘起ホルモン(MIH)の生成機構の解明を目的として、養殖・栽培漁業対象種(トラフグ、ブリ、マダイ)、多獲性魚(マサバ)、性転換魚(ササノハベラ)を対象として、それらの各発達段階にある卵濾胞を採取し卵形成の種々の過程(成長と成熟)を制御するステロイド性諸因子、特に、MIHに焦点を当て同定するとともに、その合成経路および合成に関与するステロイド代謝酵素を解明した。
まず、卵黄形成促進ホルモンであるエストラジオール-17β(E2)の合成経路を上記5種において決定し、特に、性転換を行うササノハペラとマダイでは卵濾胞でアンドロゲンであるテストステロン(T)が合成されず、E2はアンドロステンジオン(AD)からエストロン(E1)を経て合成きれることを明らかにした。次に各魚種のMIHを明らかにし、併せてその合成経路も解明した。すなわち、ブリでは17,20β-ジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン(17,20β-P)が、一方トラフグでは17,20β,21-トリヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン(20β-S)がMIHであり、マサバ、マダイ、およびササノハベラでは17,20β-Pと20β-Sの両方がMIHとして機能していることが明らかとなった。さらに、これらの魚種において、E2合成系からMIH合成系への転換は、C17,20-リアーゼの活性低下と20β-HSDの活性上昇により引き起こされ、卵成熟時に起こるC17,20-リアーゼの活性低下と20β-HSDの活性上昇は、魚類において共通したMIH合成機構であることがうかがわれた。
以上の研究により、これまで殆ど情報のなかった海産魚の卵成熟誘起ホルモンの実体とその合成機構が明らかとなり、今後これらの情報が増養殖分野、特に飼育環境下では成熟、産卵を行わない魚種の種苗生産技術の開発に大きく貢献することが期待される。
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