第2年目は、一年目に取りかかった行動と潮汐との関係、餌料珪藻量測定、行動圏の決定に関する検討を完成させるとともに、保存中のビデオを用いて干潟に生息を始めたばかりの当歳魚がテリトリーを獲得する過程に関して、解析を行った。 当歳魚は、8月に干潟上に現れ、出現当初は放浪する行動様式を見せるが、次に一つの水揚を中心に数分-数十分滞在する様式を経て次の型に変わる。最終的な定住型は10月に現れた。定住型は水揚にある生息孔(5-25cmの深さ)を中心に一定範囲で摂餌を繰り返し、侵入個体を攻撃した。また、定住型の個体間でも干渉が生じた。当歳魚はこのようにして、餌場であるテリトリーを獲得する。魚体サイズに定住型と他の型との一定の傾向はなく、必ずしも大型個体が早くテリトリーを獲得するわけではない。サイズ以外の要素も行動様式の発現に関わると考えられた。 干潟の餌料珪藻量について変化を観測し、時期的に数倍の変化があるものの、それは季節にマッチしたものではなかった。ムツゴロウの餌料量は、季節だけではない要素によって変化すると考えられたが、その要因を特定することは出来なかった。生息域間でムツゴロウの栄養状態を比較したところ、餌料量の多寡と栄養状態が対応する場合としない場合が見られ、餌料量以外の要素もムツゴロウの栄養状態に関係すると考えられた。また、ムツゴロウは生息孔を中心とするテリトリーで餌を確保する反面、生息孔への執着で行動が制限され、餌料量が必ずしも栄養状態や生産量に反映しないことも考えられた。
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